
パッシブハウス ケルン郊外
日本の本格的住宅政策は住宅建設計画法の住宅建設五箇年計画(国民生活の安定と社会福祉の増進が目的)に基づき、昭和41年から始まった。第一期、第二期(昭和41年~50年度)は住宅難を解消し、一世帯一住宅、一人一室の規模を目標に進められた。第三期からは、昭和60年を目途にすべての国民が最低住居水準を確保し、昭和55年までにはその水準以下の住宅を半減させ、平均居住水準を底上げした。次の、第五期、第六期(昭和61年~平成7年度)では最低水準未満の世帯が全国で一割となるように計画された。この第三期から第六期までの20年は、量の確保から質の向上が求められた。第七期、第八期(平成8年~平成17年度)は、市場・ストック重視となり、良質な住宅を増やすことや少子・高齢社会を支える居住環境の整備等、総合的な住宅政策を展開し、一般の住宅水準もかなり上がりあがった。量から質へ戦後の住宅政策は充実してきた。しかし、一人に一部屋で快適に生活できる面積は増え豊かになったようだが、日本の住宅寿命は約30年、米国は55年、イギリスは77年と欧米諸国と比べると極めて短い寿命となっている。これでは長期の住宅ローンを返済したころには住宅の価値は無くなってしまい、住宅投資が資本として蓄積されない。家計に占める住居費負担が重くなり、現代社会で享受できるはずの豊かさが感じられないのが現状である。また、少子高齢化に伴い、福祉や医療の負担が増大するとともに地球環境問題も深刻化する中では、いままでの短いサイクルでのスクラップアンドビルドのスタイルでは、持続可能な社会は実現できない。こういった背景を受け、政策は従来のフロー消費型社会からストック重視循環型社会へと長寿命化するように方向づけられたのである。住宅は世代を超えて利用される「社会資産」となるべきである。
政府は2008年12月に「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」を公布した。良いものを建設し、メンテナンスを計画的に行い、長く大切に使うというストック型社会への転換のためには、住宅の長寿命化を推進する事が重要であると打ち出したのである。施工日は今年6月4日である。
*超長期住宅先導的モデル事業
超長期住宅先導的モデル事業は、国土交通省が平成20 年度から実施している超長期住宅の普及啓発に役立つモデル事業への助成事業であり、広く一般から住宅を長く使い続けるための先導的な材料・技術・システムなどを提案してもらい、優れた提案に対して、費用の一部を補助する事業である。独立行政法人建築研究所では、学識経験者からなる超長期住宅先導的モデル事業評価委員会の評価を実施し国土交通省に評価結果を報告、その結果をふまえてモデル事業が採択された。評価の上採択された提案については、1件あたり200万円を上限とし、費用の3分の2を補助することとなった。長期的に使用できる住宅を建てる場合、建築時にコストが上がるが、その上がった分を補助することで消費者に超長期住宅を選択してもらえるようにし、普及をスピードアップすることが狙いである。
長期優良住宅の施策のゴールは、普通に作られる住宅が長期優良住宅である社会を実現することである。欧米では古い住宅が評価される傾向がある。土地を購入し住宅を建てる感覚よりも、既存の住宅を土地とともに購入する事の方が一般的なのである。今の日本にはその価値観はあまりない。しかし、愛着の持てる住宅をきちんと手入れし、長くもたせることで、地域になじんだ住宅を建てたり、手をかけることによって住宅の価値を保ったりし、市場で土地と建物両方の価値で売買されるようパラダイムシフトが起こらないとこの政策を加速させることはできない。また、実現させるためには技術的な問題や、それを証明するための住宅履歴書(*)、金融、保険、税の問題などをクリアにしなければならない。
住宅を建てる消費者の意識が変わるには時間がかかる。しかし、長期優良住宅が年数を経てもその価値が一般的に認められ、消費者が安心して売買できるようになることが、このモデル事業を含め、一連の施策のゴールとなる。
*住宅履歴書 東京大学 野城先生
多世代が住み継ぐという大きな目標を実現するためのツールとして、住宅履歴書は機能します。
建てられた住宅は、親族縁者だけで住み継いでいくだけではなく、住み手の視点からいえば「住み替え」、住宅の視点からいえば「住み継ぎ」といった、もっとダイナミックに市場を介した取り引きや賃貸借が行われるべきです。図面や住宅の成り立ちがわかる写真や記録を保存して、それらから住宅の性能を推定していくことで住宅の「得体」を知ることができます。「得体」がわかれば売買も安心になります。このように、できるかぎり資料をそろえ住宅の「得体」をはっきりさせていく仕組みが「住宅履歴書」です。
前田由紀夫


